新潟県新発田市、月岡温泉。
エメラルドグリーンの湯で知られる温泉街に、「摩周」という名の宿があります。
「摩周」と聞いて、北海道の摩周湖を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
なぜ、新潟の月岡温泉に、北海道の湖と同じ名前を持つ宿があるのか。
その理由をたどっていくと、一組の夫婦が北海道の開拓地で過ごした日々へとつながります。
厳しい自然の中で支えになった人々の温かさ。そして、心の安らぎを与えてくれた摩周湖の風景。
その記憶を胸に新潟へ帰郷した夫婦は、月岡温泉で旅館を開き、宿に「摩周」と名付けました。
それから時代が移り変わる中で、摩周もまた、その姿を変えてきました。
かつて団体客を迎えていた宿は、現在では少人数でゆっくりと滞在を楽しむ宿へ。そして、北海道で生まれた「摩周」という名前に込められた記憶は、今も宿のさまざまな場所に受け継がれています。
この記事では、月岡温泉「摩周」が生まれた背景から現在までの歩みをたどりながら、客室、温泉、料理、館内施設、アクセスまで詳しく紹介します。
なぜ、新潟の月岡温泉に「摩周」という名前の宿があるのか

北海道東部に、摩周湖という湖があります。
新潟県新発田市の月岡温泉に建つ宿が、なぜ北海道の湖と同じ「摩周」という名前を持っているのか。
その答えは、創業者夫妻が北海道で過ごした日々にあります。
昭和二十年代、北海道の開拓地へ

創業者の石塚重三氏と妻のレス氏は、戦争が終わって間もない昭和二十年代、仕事を求めて新潟から北海道の開拓地へ入植しました。
冬には氷点下30度にもなる厳しい土地で、夫婦は農耕に従事します。
見知らぬ土地での暮らしは決して楽なものではありませんでした。
そんな夫婦を支えたのが、現地で出会った人々の温かさや笑顔。そして、心の安らぎを与えてくれた摩周湖の風景でした。
当時の開拓地では、日用品を手に入れることさえ簡単ではありませんでした。
そこで夫婦は、「お世話になっている皆さんの役に立ちたい」という思いから、日用品を扱う店を始めます。
同じように開拓地で暮らす人々と支え合いながら生活を続け、夫婦はやがて北海道への定住を決意していました。
開拓地との別れ、そして新潟へ

しかし、入植から十数年後、状況が大きく変わります。
夫婦や仲間たちが暮らしてきた開拓地が、自衛隊の演習地になることが決まったのです。
北海道に定住するつもりだった夫婦は、やむを得ず新潟への帰郷を決意します。
厳しい自然の中で過ごした日々。
そこで出会った人々の温かさ。
そして、心に残った摩周湖の風景。
夫婦は北海道での記憶を胸に、故郷・新潟へ戻りました。
月岡温泉で「摩周」を開業

北海道から帰郷して数年後、夫婦は月岡温泉の地で温泉旅館を開業します。
北海道でふれた人々の温かさや笑顔を、新潟でも伝えたい。
そんな思いから始まった宿でした。
屋号に選んだのは、北海道での厳しい暮らしの中、夫婦の心を支えてくれた「摩周湖」の名前です。
こうして、新潟県の月岡温泉に「摩周」という名の宿が誕生しました。
現在、代表取締役を務める石塚正行氏も、両親が北海道で開拓に従事していた時期に生まれ、小学校低学年まで北海道で育っています。
両親が新潟へ帰郷し、旅館を始めたのは、正行氏が小学生の頃でした。
団体旅行の時代から、個人客中心の宿へ

創業後、摩周は時代とともにその姿を変えていきます。
大きな転換点となったのが、2018年から2019年にかけての改革でした。
2018年には、かつて団体客の宴席に使われていた180畳の大宴会場を、個室タイプのレストランへ転換。
翌2019年には、未改修だった和室14室にベッドを導入しました。
団体で温泉旅行を楽しむ時代から、家族や夫婦、友人など少人数でゆっくり過ごす時代へ。
旅行のスタイルが変化する中で、摩周もまた、宿の形を大きく変えてきました。
一方で、創業者夫妻が北海道で経験した記憶は、「摩周」という名前とともに現在まで受け継がれています。
そしてその面影は、宿の名前だけではなく、現在の温泉や料理の中にも見ることができます。
摩周の客室|4タイプから選ぶ、それぞれの過ごし方
摩周には、「四季邸いろは」「さつき邸やまのは」「和室ベッドルーム」「ツインルーム」の4タイプの客室が用意されています。
全38室すべてが禁煙で、セミダブルサイズのシモンズ社製ベッドを2台設置。
1室を3名以上で利用する場合は、ベッドに加えて5層タイプの布団が用意されます。
客室によって広さや設備、定員が異なるため、夫婦や家族、友人との旅行など、宿泊する人数や過ごし方に合わせて選ぶことができます。
四季邸いろは|摩周の最上級客室

2016年4月に誕生した「四季邸いろは」は、摩周の最上級グレードに位置する客室です。
全4室が用意され、リビングや半露天風呂を備えたタイプもあります。
定員は客室によって2名から6名まで。
客室の半露天風呂は月岡温泉の源泉ではなく、白湯が使用されています。
さつき邸やまのは|最上階5階の客室

「さつき邸やまのは」も2016年に誕生した客室タイプです。
全4室が摩周の最上階となる5階に位置し、客室には展望風呂が備えられています。
定員は客室によって5名から6名まで。
こちらの展望風呂も温泉ではなく、白湯となっています。
和室ベッドルーム|和室にシモンズ社製ベッド

2019年、未改修だった和室14室にベッドを導入して誕生したのが「和室ベッドルーム」です。
2階から5階に位置する全14室で、広さは40㎡、定員は4名まで。
畳のある和室にベッドを組み合わせ、和室で過ごす寛ぎと、ベッドで休める快適さを両立した客室です。
この改修は、前年の2018年に行われた大宴会場から個室レストランへの転換とともに、摩周が団体客中心の宿から少人数で滞在する宿へと変化していった流れのひとつでもあります。
ツインルーム|2名で過ごすための客室

ツインルームは、2名での利用を前提とした客室です。
畳の上にベッドを設えたタイプと、フローリングの洋室タイプが用意されています。
夫婦や友人など、2人での月岡温泉旅行に利用しやすいシンプルな客室です。
4タイプの客室を比較
| 客室タイプ | 室数 | 位置 | 定員・特徴 |
|---|---|---|---|
| 四季邸いろは | 4室 | ― | 最上級グレード・リビングや半露天風呂を備えたタイプあり・2〜6名 |
| さつき邸やまのは | 4室 | 5階 | 展望風呂付き・5〜6名 |
| 和室ベッドルーム | 14室 | 2〜5階 | 40㎡・和室+ベッド・4名まで |
| ツインルーム | ― | ― | 2名専用・畳タイプ/洋室タイプ |
なお、客室に備えられた半露天風呂や展望風呂は白湯です。
月岡温泉の源泉は、大浴場や露天風呂で楽しむことができます。
摩周の温泉|4つの露天風呂と、歴史につながる「日高石庭の湯」

摩周で楽しめるのは、エメラルドグリーンの湯で知られる月岡温泉です。
泉質は、含硫黄-ナトリウム-塩化物温泉(弱アルカリ性・低張性・高温泉)。源泉温度は約50℃です。
月岡温泉は、硫化水素イオンの含有量が全国1位、総硫黄量が全国2位とされる硫黄泉です。
摩周では、この月岡温泉を4つの露天風呂で、加水を行わない源泉100%の湯として楽しむことができます。
4つの露天風呂
大浴場は1階に2か所あり、時間によって男女の入れ替えが行われています。
それぞれの大浴場に2つずつ、合計4つの露天風呂が設けられています。
月美の湯
2014年に誕生した露天風呂です。
東南に開いた東屋越しに、月岡の月や星空、四季によって表情を変える庭園を眺めながら湯浴みを楽しめます。
日高石庭の湯
庭園に「日高赤石」を配した露天風呂です。
錦鯉が泳ぐ池には石組みの滝が注ぎ、日本庭園を眺めながら温泉を楽しめる造りとなっています。
源氏の湯
4つある露天風呂のひとつで、月岡温泉の源泉を楽しむことができます。
小町の湯
庭園を望む露天風呂です。
昼と夜で異なる景色を楽しめ、夜にはライトアップされた庭園を眺めながら入浴できます。
北海道との歴史が残る「日高石庭の湯」

4つの露天風呂の中でも、摩周の歴史を知ったうえで注目したいのが「日高石庭の湯」です。
庭園に配されている日高赤石は、創業者夫妻にゆかりのある北海道から運ばれたもの。
創業者の石塚重三氏とレス氏夫妻は、北海道の開拓地で長い年月を過ごした後、新潟へ帰郷し、月岡温泉で旅館「摩周」を開きました。
北海道での記憶は「摩周」という宿の名前だけではなく、現在の露天風呂にも残されています。
宿の歴史を知ってから日高石庭の湯を見ると、この石が摩周に置かれている意味も違って見えてきます。
貸切風呂「赤玉の湯」

摩周には、予約制の貸切風呂も用意されています。
貸切風呂「赤玉の湯」は、2014年4月に完成した内湯タイプの貸切風呂です。
浴室には、日本三大名石のひとつとされる佐渡赤玉石が配されています。
こちらも源泉100%の湯が注がれ、大人4名まで利用できます。
公式サイトでは、摩周にある浴槽の中でも「容積あたりの源泉注入率」が最も高い浴槽と紹介されています。
貸切風呂は予約制で、宿泊予約後から予約することができます。
摩周の料理|大宴会場から、ゆっくり味わう会席料理へ
摩周の食事を語るうえで、大きな転換点となったのが2018年です。
この年、かつて団体客の宴席に使われていた180畳の大宴会場が、個室タイプのレストランへと生まれ変わりました。
現在の摩周には、「月terraceえん」と「雪terraceあかり」という2つのレストランがあります。
月terraceえん|オープンキッチンを備えたレストラン

「月terraceえん」は、オープンキッチンを備えたレストランです。
出来立ての料理を楽しめる空間で、夫婦や友人、恋人など、2〜3名での食事に向いています。
雪terraceあかり|周囲を気にせず過ごせる個室レストラン

「雪terraceあかり」は、個室タイプのレストランです。
家族や友人など4〜8名程度のグループでも、周囲を気にせず食事を楽しめる空間となっています。
宿泊人数などに応じて、「月terraceえん」「雪terraceあかり」のいずれかの食事会場が案内されます。
新潟の食材と季節を味わう会席料理

夕食は、新潟県産をはじめとした厳選食材や、季節の食材を取り入れた会席料理です。
「月岡美人会席」では、にいがた和牛のせいろ蒸しや、のどぐろの藻塩焼きなどが用意されています。
そのほか、村上牛を味わう会席や、日本海の海の幸を中心とした海鮮会席など、宿泊プランによって異なる料理を楽しむことができます。
料理にも残る北海道とのつながり

中でも摩周の歴史を知ったうえで注目したいのが、海鮮会席です。
日本海の幸5点盛りや海鮮しゃぶしゃぶなどを中心とした摩周オリジナルの会席で、公式サイトでは「摩周の第2の故郷・北海道」に因んだ海鮮料理として紹介されています。
創業者夫妻が北海道の開拓地で過ごし、帰郷後に月岡温泉で始めた「摩周」。
その北海道とのつながりは、宿の名前や「日高石庭の湯」だけではなく、現在の料理にも受け継がれています。
朝食|月岡産コシヒカリと地元の味

朝食もレストランで提供されます。
月岡産コシヒカリに合わせたご飯のお供が籠膳に並ぶほか、新鮮なサラダ、地元・阿賀野市の「安田ヨーグルト」、フレッシュフルーツなどが用意されています。
新潟の米と地域の味を、朝から楽しめる内容となっています。
2018年の転換によって、かつて団体客を迎えていた大宴会場は、少人数でもゆっくり食事を楽しめる空間へと姿を変えました。
摩周の館内|少人数でゆっくり過ごすための空間
摩周の館内には、宴会場やカラオケ、スナックなど、団体旅行の賑わいを楽しむための施設はありません。
公式サイトでも、こうした施設を設けておらず、団体での予約も受け付けていないことが案内されています。
開放感のあるエントランス

館内に入ると、吹き抜けの天井を備えた開放的なエントランスが迎えてくれます。
客室や温泉へ向かう前から、落ち着いた時間を過ごせる空間が広がっています。
ロビーラウンジ|庭園を望む180度のパノラマビュー

1階のロビーラウンジは、2018年春にリニューアルされました。
大きく開かれた窓からは、180度のパノラマビューで庭園を望むことができます。
大浴場の入口にも面しているため、湯上がりに庭園を眺めながらひと休みすることもできます。
ラウンジにはフリードリンクが用意されているほか、生ビールなどの有料ドリンクも提供されています。
売店|新潟のお土産と地元・新発田の工芸品

売店は、1階のフロント前にあります。
新潟県を代表する米菓をはじめ、地元・新発田の工芸品などを販売しています。
さらに、館内で実際に使われている花瓶や箸なども取り扱われており、滞在中に気に入った品を旅の思い出として持ち帰ることもできます。
大勢で賑やかに過ごすための施設を設けるのではなく、庭園を眺め、温泉を楽しみ、館内でゆっくりと時間を過ごす。
現在の摩周の館内には、団体旅行の宿から少人数で滞在を楽しむ宿へと変化してきた、その姿が表れています。
摩周へのアクセス・基本情報
摩周は、新潟県新発田市の月岡温泉にあります。
新潟駅や新発田駅からは月岡温泉への直通バスが運行されているほか、車では日本海東北自動車道、磐越自動車道の両方面からアクセスできます。
新潟駅・新発田駅から直通バス
新潟駅から月岡温泉までは、月岡温泉旅館協同組合が運行する直通バスで約60分。運賃は大人1,500円です。
新発田駅からも直通バスが運行されており、月岡温泉までは約25分、運賃は大人500円です。
以前運行されていた豊栄駅から月岡温泉へのシャトルバスは、2025年7月に運行を終了しています。
月岡駅からは無料送迎
山形・秋田方面などから羽越本線を利用する場合は、新発田駅から月岡駅まで約25分です。
月岡駅から摩周までは約7分。事前に連絡することで、無料送迎を利用できます。
新潟空港から
新潟空港から摩周までは、タクシーで約40分です。
また、新潟空港から新潟駅まで空港リムジンバスなどで移動し、新潟駅から月岡温泉への直通バスを利用する方法もあります。
車でのアクセス・駐車場
車の場合は、日本海東北自動車道「豊栄新潟東港IC」、または磐越自動車道「安田IC」から月岡温泉方面へ向かいます。
建物に隣接した屋外駐車場があり、予約は必要ありません。
冬季(12月〜3月)は路面凍結や積雪のため、スタッドレスタイヤの装着が必須です。積雪は多い年で30〜50cm程度になります。
摩周の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施設名 | 月岡温泉 摩周 |
| 所在地 | 新潟県新発田市月岡温泉654-1 |
| 電話番号 | 0254-32-2131 |
| チェックイン | 15:00(最終18:00) |
| チェックアウト | 10:00 |
| 駐車場 | 屋外駐車場あり・予約不要 |
交通機関の運行時刻や料金は変更される場合があるため、利用前に最新情報をご確認ください。
まとめ|北海道の記憶を受け継ぐ、月岡温泉「摩周」

なぜ、新潟県の月岡温泉に「摩周」という名前の宿があるのか。
その答えは、創業者である石塚重三氏とレス氏夫妻が、北海道の開拓地で過ごした日々にありました。
厳しい自然の中で夫婦を支えた人々の温かさと、心の安らぎとなった摩周湖の風景。
新潟へ帰郷した夫婦は、北海道で感じた人のぬくもりを新潟でも伝えたいという思いから月岡温泉で旅館を開き、その宿に「摩周」と名付けました。
北海道とのつながりは、現在の宿にも残されています。
露天風呂「日高石庭の湯」には北海道から運ばれた日高赤石が配され、料理には「摩周の第2の故郷・北海道」に因んだ海鮮会席が用意されています。
一方で、摩周は時代に合わせて大きく姿を変えてきました。
2018年には180畳の大宴会場を個室タイプのレストランへ転換。翌2019年には未改修だった和室14室にベッドを導入し、現在は団体での予約を受け付けず、少人数でゆっくりと滞在を楽しむ宿となっています。
北海道の開拓地。
夫婦の心を支えた摩周湖。
そして、その記憶を受け継ぎながら時代とともに変化してきた月岡温泉の宿。
「摩周」という名前の由来をたどっていくと、単なる旅館の沿革だけではなく、一組の夫婦の想いが、今も宿のさまざまな場所に受け継がれていることが見えてきます。




